若松は、かつて筑豊炭田からの石炭積出港として栄えた港町。大正期から昭和初期にかけての近代建築が多く残っており、門司港レトロに続いて注目されています。
その中にある上野ビルは、旧三菱合資会社若松支店だった建物で、丸ノ内建築所(現在の三菱地所設計)2代目技師長を務めた保岡勝也が、独立して最初に手掛けた事務所建築です。この建物の視察が目的。社長様にご案内いただきました。
かつては右角が搭状に立ち上がるデザインがなされていましたが、パラペットを高くする改修がなされており、頭の形は変わっています。
三菱地所合資会社の後、三菱鉱業が引き継いでいましたが、昭和40年代に地元企業の上野海運が取得。以降は、基本的に変更するような改修を行なっておらず、外観も内観もそのまんま。非常にオリジナルの状態がよく保たれています。
大正初期の丸ノ内の事務所建築の図面に見られる特徴と非常によく重なります。つまり、丸ノ内の大正初期の事務所建築を体感することができる。
画像はビルオーナーである上野海運事務所。映画のセットみたい。
2階から上はテナントビルになっています。テナントビル玄関。
昔のまんまで全くいじられていないのにはビックリさせられます。階段の下のトイレなんかも昔のまま。
そして、2階から3階にかけての吹き抜けがドーン!素晴らしいの一言です。
ステンドグラスがあしらわれたトップライト。自然光が柔らかく入って来ます。
回廊のディテール。円柱と欄間はスチール製、手摺は木製、回廊の天井はこの時代に流行った金属製パネル。
3階の回廊。人気のカフェがあります。
オサレだし、なにより落ち着ける雰囲気。窓の外は戸畑と若松の間の湾が広がる。OLさんが2名窓に向かって並んで座ってた。癒されますよね。
テナントさんは、カフェやブティック、アート系建築設計の事務所が入居しており、ロケでもしばしば使われているようです。5室空いてるそうで、ご希望の方いませんかぁ。
三菱鉱業時代に社食があったそうで、タイル貼りの綺麗な流しがあった。
いやぁ、美しい!
流しのある部屋は搭状の角。そこから螺旋階段を登ると屋上に出る。いい景色だぁ。
外装の白煉瓦は、八幡製鉄所の製鉄工程で産まれるスラグ=鉱滓(こうさい)で作った煉瓦だそうで、八幡製鉄所内の事務所(現存せず)なども同様の材料が見られます。
上野ビルのみならず、倉庫や石炭を研究していた建物、敷地の周りの囲いまでセットで残っているところがすごい。
上野社長、あいがとうございました。
若松は門司とは違い、まだ観光客も少なく、静かな佇まいがあります。
本町の町並み
戸畑との間の渡船も頻繁に就航しており、魅力的な街として、これからますます磨かれてゆくことでしょう。
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旧戸畑市役所を保存リノベーションした戸畑図書館。
まず外装ですが、基本的に綺麗に更新されています。スクラッチタイルも張り替えられています(張り替えられない場所に元の材料が残っている)。
内部は壁を取り去って軽量化することで、建物に入る地震力を減らし、鉄骨を挿入して補強をしています。したがって、内装一新スケルトン。これはこれで一つのやり方であろうと思いました。
門司駅近くの赤煉瓦プレイス。
10年前だったかな、来た時はまだ使っていて、これからどうやって保存していこうかという頃でしたが、
すっかり整備が進んでいました。この白煉瓦も八幡製鉄所の鉱滓(こうさい)煉瓦かな。