(長野県飯田市上村下栗本村)
前回「天界の村を歩く2 南アルプス 小渋川」より
「天界(あまさか)の村」の東日本最大の見せ場である遠山郷(旧上村・旧南信濃村)です。画像は1985年の下栗本村。わたくし万訪が集落探訪を始めるきっかけとなった「集落探訪のふるさと」です。その経緯は、「天界の村を歩く1」で滔々と語っているので、そちらをご覧ください。
飯田のホテルを早朝4時に出発して、下栗本村・半場地区の一番高いところにある駐車場に5時台に到着しました。下栗は、私が最初に訪れた34年前、民俗学者の中でこそ知られていましたが、観光とは無縁でした。しかし、今では「天空の里・下栗」として有名、日中は多くの観光客が訪れます。
したがって、人っ子ひとりいない時間にドローン空撮する必要があります。早速、2本飛ばしました。集落の標高の高さと本村と半場の形態の違いがよくわかります。
駐車場(分校跡)から30分ほど歩いたビュースポットから。本村地区を横に眺めることができます。
さて、集落の一番上にある駐車場から最下部まで往復しましょう。
本村・半場は、最下部の家が標高約870m、最上部の分校跡で標高約1070m、高低差約200mの斜面上集落で、20度から30度の南向き緩斜面にへばりつくように形成されています。直下の遠山川が標高約570mだから、谷底から300~500mの高さになります。半場の町並み。半場本村の間には拾五社大明神があり、上下で集落形態が異なっています。最初に訪れた時、郷土史家の方が、半場集落の方が蔵が少なく新しいのではないかとおっしゃっていました。
半場地区の古民家。以前、外部から来た芸術家が住んでいたと聞きました(下)。今は改修されながらも、地域の施設として使われているようです(上)。
半場集落。まさに山岳集落!
奇祭「霜月祭」の行われる神社のひとつである拾五社大明神。 神社下にある「井戸端」という屋号の家。その名のごとく、井戸の側にある家で、集落形成の原点的存在です。34年前は宿を営まれており、当時はこの家に宿泊しました。
井戸端の秋葉信仰の石碑。
井戸端より下は急斜面上に雛壇を形成し、その間を道路がヘアピンカーブを描きながら縫って行きます。
屋敷地の奥行きが限られているため、主屋と付属屋が一列に並びます。
蔵を備えた家。
下から見上げた本村の家並み。すごいなぁ。
本村から遠山川の上流方向隣にある屋敷・小野地区。1985年の写真です。
屋敷・小野地区。
遠山谷最奥の大野集落(右手前)から下流方向を眺め空撮。
遠山川右岸斜面高いところに、小野、屋敷、本村・半場と続きます。下栗集落の起源については、平家の落人伝説、甲斐の国からの移民説など諸説あります。後者では、甲斐の国からやってきて最初に大野に住み付き、次第に本村へ移っていったというもの。
1985年の大野集落。板葺き石置き屋根が残っていました。
ハザと言われる農作物の干し台。
川に沿って下ります。下栗本村よりやや下流に下栗須沢という小さな集落があります。斜度では本村よりきついと思います。
下栗の各集落は、南アルプスの主峰・大沢岳から分岐した尾根上にある炭焼山の斜面上に分布しているわけですが、一番西にある中根地区だけは旧南信濃村に属します。遠山川と支流・上村川との分流点に向かって、炭焼山頂から真っ直ぐに下る尾根上に形成されているのが中根集落です。今までずっとスルーし続けてきましたので、今回初取材です。とにかく尾根の頂に延々と続くので、高低差380m、全長なんと2.5kmの非常に長い山岳集落です。画像は上中根の空撮。
画像は下中根の空撮。遠山川の分流点に向かって尾根が下り、その上に集落が形成されている様子がわかるでしょうか。
上中根を歩いてみると意外なほど広々緩やかでした。
主屋と蔵が一列に並んでいてくっついています。この地域の古民家の形態。
農作物を干し掛けするハザという木組み。
板倉が残っていました。
農作物を売っている無人売り場。
上中根。
下中根。これだけ高低差があり長く家々が点在していると、歩こうという気は起こりません。クルマで取材です。
遠山川の谷に下ります。遠山郷の中心集落である旧南信濃村和田。秋葉街道の宿場町でした。
遠山川最後は南信濃村此田です。
旧秋葉街道にあたる国道152号線は、和田から八重河内川・小嵐川に沿って南下し青崩峠手前で車道が分断されています。静岡県浜松市(旧水窪町)へは、隣の兵越峠で県境を越えることができますが、その手前にあるのが八重河内此田集落で、小嵐川谷を見下ろす見事な天界の村です。
斜面には茶畑が広がっており、遠江国に近いことを意識させられます。
谷の向かいの山が土砂崩れしており、集落の背景として印象的です。
大きな2階屋がありました。かつて宿を営んでいたと思われる建物。
ここにも板倉あり。
さぁ、この後は静岡県に入り、南アルプスの南部にある天界の村を歩きます。